法律コラム

遺留分減殺請求と価額弁償

投稿者 admin on 6月 15, 2011

遺留分減殺とはどういうものかという点は、別にご説明していますのでご参照ください。要するに、遺言な生前贈与などで、自分の遺留分(法定相続分の半分)を侵害された相続人が、貰い過ぎの人に、侵害された遺留分が回復されるまで、貰い過ぎ分を返還せよと求める手続です。

貰いすぎた中には、不動産があるかも知れませんし、あるいは例えば宝石があるかも知れません。侵害された遺留分を満足する限度で返還を求めるには、多くの場合、その物全部ではなく、その一部、すなわち持分を返還せよということになる場合が多く、その請求が認められれば、その不動産や宝石についての共有状態が生じることになり兼ねません。

そこで、遺留分権利者には、共有状態になることを避けるため、その対象物を選んで、その物について物(やその持分)を返還する代わりに、その代金を支払う、という価額弁償を態度を取ることが認められています。これを価額弁償と言います。

 遺留分減殺請求を受けた場合に、初めから対象物を選んで、ではお金で返そうという態度表明をすることが出来ます。そして、遺留分権利者も、ではお金を貰えばよいという態度を示した場合は、そのものについての遺留分減殺請求の権利は、確定的に代金請求の権利に変わり、裁判としても代金の支払を請求するものになります。また、代金額が争いになる場合には、遺留分義務者のほうから代金額確認の訴訟を起こす利益があるとするのが最高裁判例です(最高裁平成21年1月24日)。

遺留分減殺の意思表示をしても、遺留分義務者が何の反応もしないとか、遺留分義務を争うとかいう場合には、遺留分権利者が権利行使をしようと思えば、とりあえず家庭裁判所で調停を申立てるか、あるいは地方裁判所で遺留分減殺の訴訟を起こすかしなければなりません。

このような場合、訴訟のテーマは、原則に戻り、貰い過ぎ分の物を返還せよという請求になります。これに対して、遺留分義務者が、貰い過ぎの内容などを争うだけで、前術の価額弁償の抗弁を提出しない場合には、裁判の結論は、貰い過ぎがあったかどうかなどを判断して、請求のうちの全部あるいは一部の返還を命ずるか、あるいは請求を棄却するか、のいずれかになります。

それでは、遺留分義務者が、返還せざるを得ない貰い過ぎの物について価額弁償をしたいと思う場合、いつまでにどのような主張をすればよいのでしょうか。この問題についてはいろいろな変遷がありましたが、最近の最高裁判例(最高裁平成9年2月25日)によりほぼ確定しました。

その内容は、控訴審の口頭弁論が終わる前までに、遺留分義務者が、代価弁償をしようとする物を決めて、「これらについて裁判所が定める金額で価額の弁償をする」という抗弁を提出したときは、裁判所は、口頭弁論終結時を基準として価額弁償すべき金額を決めて、しかし、単にその金額の支払を命ずるのではなく、「その金額を支払わなかったことを条件として、(元の)現物返還請求を認める」判決を出すべきである、というものです。

ですから、遺留分義務者が価額弁償の抗弁を出す際には具体的金額まで提示する必要はありませんが、裁判所は対象物の時価について何も知識がないわけですから、当事者双方は、その価額についてのあれこれの資料を提出する必要があるでしょう。それでも時価がはっきりしない場合には、裁判所において時価を鑑定により定めることもあり得ます。その価額の基準時はその裁判の口頭弁論終結の時点となります。

この価額弁償の抗弁は、貰いすぎであるということを争いながら、その点で不利な判断が出ることに備えて提出しておく(予備的抗弁といいます)ことも出来ます。

上述の判決は、条件付の認容判決ですから、これが確定した場合には、遺留分権利者は強制執行が出来ます。ただし、条件となっている遺留分義務者の代金支払は、払った者が支払の証明をすることは簡単ですが、条件を科されている権利者のほうで支払がないという証明をすることは出来ません。自分は貰ってないと本人が言うだけでは証明とはなりません。

そこで、民事執行法は、債務者の証明すべき事実のないことが条件となっている場合、強制執行に際する執行分付与申立の際、裁判所書記官が債務者に対し一定の期間を定めてその事実を証明する文書を提出することを催告し、債務者がその期間内にその文書を提出しないときに限り執行分を付与する(そして、強制執行を進行させる)ことを定めています(同法174条3項)。逆に、遺留分権利者からすれば、判決が金額が決まってからはいつでも、遅くともこの催告を受けて期間が経過する前まで、お金を支払った証明を提出して、物の返還の強制執行を止めることが出来ます。相手がお金を受取らないときは供託することで支払に代えればよいのです。

ただ、遺留分義務者が価格弁償の意思表示をしていないのに、遺留分義務者のほうから金銭弁償の請求をすることは出来ません。遺留分権利者からは、あくまで、現物の減殺請求が出来るだけなのです。

 遺留分減殺請求による貰い過ぎ現物(例えば不動産)の返還請求が行なわれた場合、結果として遺留分権利者と遺留分義務者の持分による現物の共有状態が起こる可能性があります。ただ、共有のままではその現物(例えば不動産)の管理や収益に不都合が生じますので、共有状態を解消することが望ましいでしょう。

共有状態の解消のためには、まず、当事者で解決方法を協議することが必要です。しかし、どうしても協議による共有状態解消の解決が出来ないときは、訴訟により共有物解消を求めることが出来ます。裁判所は、これを一方の所有にして他方に適宜な代償金を支払わせるとか、一方の所有にすることが適当でないときは競売に付して代金を持分に応じて分けるとか、種々の方法により共有状態を解消することになります。

遺留分減殺の手続や裁判は、その権利の存在の有無や、減殺対象の選択など、複雑ですので、問題にぶつかった方は弁護士に相談をすることをお勧めします