法律コラム

個人事業主を「労働者」と判断した最高裁判決(最高裁平成23年4月12日)

投稿者 admin on 5月 9, 2011

 業務委託契約を結んで業務を行っている個人事業主も労働者に当たるかが争われた事件で、最高裁が労働者に当たると判断を下したということで、新聞に大きく報じられました(平成23年4月12日)。 この日、最高裁は、同じ争点をもつ2つの事件について判決をしました。1つは、住宅設備のメンテナンス会社と業務委託契約を結んでいる個人事業主のケースで、もう1件は、新国立劇場とオペラ公演に出演する1年ごとの契約を結んでいた合唱団員のケースです。いずれも労働組合に加入し、その組合が会社に団体交渉を申し入れたところ、会社に拒否されたので、労働委員会に不当労働行為(労働組合法7条二号で、使用者は、労働者の代表者と団体交渉を拒否することが禁止されています)で救済を求めた事案です。

 この2件の裁判で何が争点になったかというと、契約上、会社(以下、2番目のケースでは劇場と読み替えて下さい)からの依頼に対し、事業主は断ることができることになっていること、業務の日時、場所、方法等について会社の指示監督を受けないこと、独自に営業活動を行って収益を挙げることが可能であること、などの独立性があるように規定されていたのですが、実態はそうではなく、会社の業務の不可欠な労働力として位置づけられ、契約内容も会社が一方的に決め、事業主は会社からの依頼に従わされていたというように、契約と実態が異なっている場合に、契約内容から形式的に独立事業者と見るのか、実態から、労働者と見るのか、でした。


 最高裁判所は、実態を重視し、①会社の業務遂行に不可欠な労働力として、組織に組み入れられていたこと、②当事者の認識や契約の実際の運用において、会社の依頼に対し、事業主は応ずべき関係にあったこと、③会社が契約内容を一方的に決めていたこと、④事業主の報酬は労務の提供の対価となっていたこと、⑤業務において、会社の指揮監督の下で、時間的・場所的にも一定の拘束を受けていたこと、を理由として、いずれも労働組合法上の労働者であると判断し、会社は労働組合の団体交渉に応じなければならないとの判断を下しました。
 この判決は、従来からの学説・判例に従ったものと言えますが、驚くべきなのは、いずれも高等裁判所は、業務処理契約(2件目では出演契約)の解釈から、労働者であることを否定していたことです。高等裁判所は最高裁判所と違って事実審理を行うことを役割としていますが、その裁判所が契約の運用実態、当事者の認識について踏み込まずに、契約の解釈から形式的に判断してしまっているのです。


 社会で弱い立場の人が不利益を受けるという事件では、契約上は対等であるように見えるのに、実態は弱い立場の人が不利益を受けるようになっているというケースがよくあります。弁護士としては、その実態をなんとか立証して、不正義であることを暴こうと努力するのですが、なかなか契約の壁が厚いために、これを乗り越えるのに大変苦労します。本件の最高裁判所の判決文を読む限り、会社と事業主との間に使用従属関係という実態があったことはかなり明確なケースだと思えるので、高等裁判所は、もっと実態に踏み込んで判断すべきではなかったという気がします。


  なお、本件は労働組合法の不当労働行為に関する判断ですから、この個人事業主が賃金や労働条件を定める労働基準法の関係で「労働者」と判断されたわけではありませんので、ご注意ください。